これからの時代④「相互検索社会」

更新日:2021年5月6日



 問題点の三つ目は、ビッグデータの集約が国民全体化し、さらにグローバル化すると、各国の国民はAIと量子コンピューターを駆使する企業や自国の政府さらには他国の政府や国際機関に制御されるようになるということです。ビッグデータによって人間全体のおおよその行動がリアルタイムに分析され、個人の行動もその範疇内に収まると予想されるようになります。近い将来、人類は制御する側と制御される側に明確に分かれ、制御する側は実に少人数という世界構造となります。

 結論から申しあげましたので、順々に説明していきたいと思います。世界保健機関WHOがリードする感染症拡大防止の事例を挙げて考えてみたいと思います。二〇〇三年に発生した感染症SARS、二〇一五年に発生した感染症MERSの対策を経験した中国・韓国は、今回の新型コロナウイルスの感染経路をビッグデータ集約の方向性から徹底的に把握しました。韓国政府は、中国武漢市から発生したと報道される新型コロナウイルス感染者の性・年齢・感染を確認した日などを政府や地方自治体のホームページに掲載しました。これは特定される危険性が極めて高い個人情報ですが、国民に公開されました。さらには、感染者が利用していたカード会社の記録から、何時何分にどこの店舗に行ったかがわかるように、その足取りさえも政府や地方自治体のホームページに公開しました。例えば、「3月26日午後4時20~22分、ソウル市麻浦区のパン店にマスクを着用し徒歩で来店(防疫消毒済みで安全)」というように。個人情報に対する韓国政府の価値観は、日本政府とは大きく違っているようです。

 2016年時点の各国電子決済比率を調査した野村総合研究所「キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識」レポートでは、次のような数値が出ています。

  【各国キャッシュレス決済比率】

    韓国(96.4%)

    中国(60%)

    シンガポール(58.8%)

    日本(19.8%)

 韓国では96パーセント以上を電子決済で行います。このように国民に広く定着したキャッシュレス文化があったからこそ、新型コロナウイルス感染者の行動履歴を、抜け漏れがほとんどなく公開することができたと考えられます。もしも日本で今の段階で韓国と同じような取り組みをしたとしたら、おそらく行動履歴に多くの抜け漏れが生じ、危険回避のための情報となるには不十分な情報が公開されるだけでしょう。決済比率96パーセント以上を誇る韓国では、ビッグデータを感染拡大防止の方向に利用し、感染危険個所の明確化を行い、多くの国民の命を守ったと言っても過言ではありません。そして感染第二波、第三波が押し寄せたとしても、韓国はあわてることなく自粛と経済活動のバランスを判断し、国民に指示することができます。これはビッグデータの良心的な利用方法と言えます。

 感染拡大防止の観点からとはいえ、個人が特定されるかもしれない情報をネット上に公開するわけです。周囲との和を重んじる日本人は、人から指をさされて注目を浴びるようなことを嫌う傾向がありますから、名前自体を表示しないにせよ、韓国のような周知徹底方法が根付いていくかは大変疑問です。一方、韓国では個人の行動履歴が公開されることについて、「感染を避けるためには必要な情報だ」(ソウル市のある男性)と支持する者もいて、日本人の価値観との相違が象徴されています。

 日本政府は韓国や中国の取り組みに倣い、感染経路を追跡するアプリ開発に着手しましたが、利用者を特定できる情報は扱わない方針で進めています。感染拡大防止に有効な情報であり、かつ個人が特定されない情報を提供すると考えると、私は矛盾を感じてしまいます。この追跡アプリを契機に、感染者が特定されてしまい、SNSなどで差別が拡大してしまうのではないかと危惧しています。この感染経路追跡アプリを喜んで利用する日本人は何割になるでしょうか。

 スマホやタブレット・パソコンが普及しているこのグローバル社会において、購入履歴をはじめとする様々なビッグデータの収集は大きな利益と、大きな危険を含んだ作業となります。韓国のように国民にまでデータ収集の理解が及んでいるところもあれば、日本のように政府の推進意欲と国民の意識に乖離が生じているところもあるわけです。そういったグローバル社会で、どちらの方が今後国力を高めていくでしょうか。論ずるまでもなく前者だと私は考えます。

 AIはビッグデータを分析し判断する能力に長けています。さらに量子コンピューターは現状のスーパーコンピューターを遥かに凌駕する驚異の判断スピードです。一人の人間が一生かかって分析をするような分量を、瞬時に何回も判断しています。AIと量子コンピューターによる判断を活用する国は、過去の購入履歴のビッグデータから次のような情報を得ます。例えば、「ある季節の何月何日には、この地域でこの商品が売れている」「交通事故が多い時間帯と地点はここで、その地点まであと数キロ」「何月何日付け新型ウイルス罹患者は、あなたを中心として半径何メートル以内にいます」ということも、瞬時にわかってしまうわけです。こういった情報を常に手元に置きながら仕事をする国とそうでない国と、さてどちらが成功していくでしょうか。AIによる判断を求めない国は、リーダーの口頭による大雑把な休業判断に呼吸を合わせるしかなく、補償がなければ閉店や倒産を待つ構造に陥ります。倒産が連続すればその影響で様々な職種に危機が起こってくるはずです。コロナ禍では、どちらも経済が停滞し減速する方向に向かいますが、コロナと共存できる経済活動は前者に違いありません。

 各国の政府と国民の事情によってさまざまなタイミングがあるでしょうが、AI化IoT化は先進国が先進国としての地位を維持するための喫緊の課題です。ここに乗り遅れると、国際社会では評価を下げて見られることになります。テクノロジーを使いこなせない民族とレッテルを貼られるかもしれません。そうなれば、教育にも目を向けてもらえないでしょうし、パソコンに疎い青年たちで構成する経済活動にも魅力を感じてもらえなくなってしまうでしょう。

 このように、時間の問題で世界はAI化、IoT化、量子コンピューター化の社会に彩られていきます。現在のアナログな業種はその仕事の価値を変えずにAIの判断能力を駆使するようになるはずです。例えば、学校業務では生徒の出欠を顔認証で済ませるでしょうし、交通量調査では、カメラ一台を道路においておけば、カウンターを手にもって調査する必要もなくなるでしょう。簡単に考えるとこのような変化が予想されます。

 AIを利用した便利な社会では、個人が特定され得る情報を24時間どうぞと差し出し続けています。私たちは、より便利な社会で生活する代償として、いつでも検索される対象に位置付けられているのです。この社会を「相互検索社会」と名付けることもできると思います。個人同士の検索であれば、まだましです。個人の印象を悪くしないように情報を追加削除することがかろうじてできます。しかし、クレジットカード会社や検索エンジン企業が集約している情報は、削除前履歴や削除履歴も含めて全てですから、氏名・年齢・性別・住所・などの個人情報、操作履歴、行動履歴、蓄積されたテキスト・写真・動画データはすべて記録されていると考えて間違いありません。ビッグデータを集約し制御する側は、その気になればいつでも個人のプライベートな情報を検索し見つけることが可能なのです。このAI化IoT化社会では、ビッグデータを集約する側が強者となります。景気の動向もわかります。世論がすぐにつかめます。危険因子をすぐに見つけ出すことができます。これらはビッグデータを集約した側の専売特許なのです。

 ビッグデータ取得企業やそれを利用する政府や国際機関が、世界の大勢をリアルタイムで理解し、その気になればいつでも個人を検索し特定ができる社会。私たちは、これからマクロとミクロの視点で見つめられて生きていくことになります。AIと量子コンピューターを使いこなす少数の人間に、人類は制御されるのです。いびつな社会構造の新しいルールで世界は動き出しています。この第4次産業革命がもたらした流れは、この上なく便利なだけに、もう止められません。ひとまず受け入れ、AI化、IoT化の良いところだけではなく、危険なところをしっかりと理解し、これからの時代をどう幸福に生きていくかを皆で模索していきましょう。


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